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大会の前後にも関係を育てるために何を届けるか

執筆:杉本 啓(代表取締役)
大会の前後にも関係を育てるために何を届けるか

この記事のまとめ

大会後の発信を、写真とお礼で終わらせないために。東京マラソン、Breaking2、Breaking Balletから編集の働きの違いを読み解き、参加者との関係を育てる連載と、新しい人が出会う入口を考えます。

大会が無事に終わり、会場の写真と結果、お礼の投稿を出す。片づけと精算が落ち着くころには、次の大会の準備が始まっている。参加者の熱気も企業の協力もあったのに、その後に届けられるものが少ない。主催者には、そんな悩みがあるかもしれません。

そこで「もっと投稿しましょう」と言うだけでは、仕事が増えるばかりです。開催前後の発信を考えるなら、まず、誰が何を知りたくなるのかを決めたい。参加した人が自分の一日を振り返る理由と、まだ来たことのない人が大会へ関心を持つ理由は違います。

参加した人が挑戦の続きを見たくなる発信と、まだ参加していない人が初めて関心を持つ発信を分けて考える図。相手ごとに編集を選び、取材、利用範囲、編集の担当、費用を準備する。
図解:二つは異なる読者への入口。開催前から、誰が見たくなる内容かと、つくり続ける体制を決める。

当日を支える仕事の中に、残せるものがある

大会には明確な締め切りがあります。人も予算も開催日に集中するのは当然です。ただ、取材や記録が余裕のあるときだけ行う仕事になっていると、後から伝えたい場面が見つかっても残っていません。参加者がどこで迷ったか、選手が何を決断したか、企業の協力で何が可能になったかは、聞かなければ分からないことがあります。

僕は、そうした時間にこそ、結果を知った後にも見たくなるものがあると思います。誰かの準備や工夫を知って、自分も試したくなる。普段は見えない仕事を知って、大会の見え方が変わる。映像や記事をつくるときには、この発見を具体的にしたいです。

三つの事例から、編集の働きを分けて見る

東京マラソンの「42のストーリーで想いをつなぐインタビューリレー」は、走る人、応援する人、大会を支える人の思いをつないでいます。ボランティアや大会運営に関わる人、パートナーも登場します。完走者やトップ選手だけを主役にせず、同じ大会を別の立場から見られる企画です。

この発信は、知っている大会への視点を増やしています。自分が走った道に、こんな準備をしていた人がいた。いつも受けていたサービスに、こんな思いがあった。自分の経験と他の人の経験がつながることで、関わった一日をもっと知る理由が生まれます。

NikeとNational Geographicによる「Breaking2」のドキュメンタリーは、2017年のマラソン2時間切りへの挑戦の後に公開されました。選手のトレーニングに加え、科学者やエンジニアの仕事、シューズ開発など、挑戦を支える過程を伝えています。

ここでは、結果を知っていても、その挑戦がどうつくられたかを見たくなります。選手の努力と企業の技術が、同じ目標に向かう物語の中にある。大会の記録を残すことから、準備や判断の過程に興味を持ってもらうことへ、編集の役割を広げています。

スポーツ以外では、南アフリカのJoburg Balletによる「Breaking Ballet」が参考になります。制作側の応募解説によると、若く多様な観客に届くため、オンラインで話題になっている出来事を短いバレエ映像にし、その話題の会話へ届ける企画でした。

こちらは、まだバレエへ関心を持っていない人のための入口です。知っている話題から作品に出会い、表現そのものを楽しめる。大会でも、開催日や募集要項だけを繰り返す以外に、日常の関心から競技へつながる入口を考えられます。流行に何でも乗るという話ではなく、その競技の表現や面白さを生かせる接点を探す発想です。

視点を増やす、結果の裏側を知りたくさせる、日常の話題から新しい人へ届ける。三つの事例は違う仕事をしています。まず自分たちは誰との関係を育てたいのか。それによって、取材する相手も、見せ方も変わります。

参加した人が、続きを見たくなる連載を考える

例えば、市民マラソンで初参加者と家族の一日を追う、という仮の企画を考えます。開催前には、何を不安に感じ、家族とどんな準備をしているかを聞く。当日は、走る人と応援する人、それぞれが印象に残った場面を記録する。開催後には、予想と違ったこと、助けられたこと、次に変えたいことを聞きます。

ここで追いたいのは、予定どおりに感動する物語ではありません。初めてだからこその迷いや、やってみて分かったことです。完走したかどうかにかかわらず、その人が話したい経験には、次の参加者が知りたいこともあるでしょう。同じ人の変化をたどることで、写真を並べるだけでは伝わらない時間を残せます。

仮に交通会社が協賛しているなら、家族が応援場所へ移動するための案内など、実際に支えられる仕事を探せます。参加者へ会社を褒める言葉を求める前に、どの準備や移動を助けられるかを考える。その仕事が本人たちの経験の中でどう役立ったかを伝えれば、企業の役割も具体的になります。

一方、まだ大会を知らない人には、連載の第1回から読む理由がないかもしれません。家族での休日の過ごし方に関心がある人へ、沿道で応援する一場面を届けるなど、関心の入口を別に用意する。連載全体を見せることと、短い一場面で初めて出会ってもらうことを分けると、同じ取材素材にも使い道が増えます。

本人の意思と、続けられる体制を先に整える

取材前には、本人の意向と競技への影響を確かめます。話したくないことを無理に聞かず、結果や体調によって内容を変えたり、発信を見送ったりできるようにする。選手の言葉を企業に都合よく整えすぎないことも大切です。誰が確認し、どこへ、いつまで使うかを話しておけば、公開後の使い方も考えやすくなります。

取材、撮影、編集、確認には費用と時間がかかります。主催者の担当者が空いた時間で続ける前提にせず、企業とともに必要な仕事として予算へ入れたい。最初から毎週の投稿を約束する必要はありません。新しく伝える内容がある時期を選び、用意できる本数と担当を決めれば、無理なく質を保てます。

届けた相手に合わせて、次の判断をする

公開後は、参加した人が後日の記事にも戻ってきたか、準備や振り返りに役立ったという声があるかを見る。新しい人との出会いを狙う内容なら、これまで大会を知らなかった人に届いたか、競技や観戦へどんな関心を持ったかを確かめます。同じ閲覧数でも、知りたいことは違います。

すべての記事から申し込みや購入が生まれる必要はありません。見る楽しさや、競技を深く知ること自体にも価値があります。そのうえで、再参加を目指す発信なら次の案内を受け取れる場所を用意するなど、目的に合う接点をつくる。大会に関わった人の経験と、これから関わる人の関心をつなぐことが、次の開催へ残せる仕事になると思います。

参考資料

  1. 東京マラソン2025:42のストーリーで想いをつなぐインタビューリレー
  2. National Geographic: Watch the Epic Quest to Run a Marathon in Less Than 2 Hours(2017年9月29日)
  3. The One Club: Breaking Ballet(2019年、制作側による応募解説)

この記事を書いた人

杉本 啓

株式会社イレブン・プラス 代表取締役。スペイン・バルセロナの大学でスポーツマーケティングを専攻し、IMG Japanでのインターンを経て電通に入社。その後、Red Bull JapanでAthlete Marketingを担当し、アスリート契約、イベント、映像制作を経験。2017年にアスリートマネジメント会社イレブン・マネジメントを、2023年にイレブン・プラスを設立。ブランドと競技、双方の実務経験をもとに、企業の課題と現場の声に向き合い、案件に応じた専門チームで企画から実行までを支援します。

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