初めてのスポーツ体験から、地域で続けられる機会へ
この記事のまとめ
体験会を一日の思い出で終えないために、企業は何を担えるか。ユニクロ、UEFAとDisney、Decathlonの事例から、参加の壁と、地域で受け止める仕組みを一緒に考えます。
体験会に来た子どもが、初めてボールを追いかけて笑っている。この活動を続けたいと思う一方で、翌年の予算が気になる。帰宅した子どもが、その後どこで競技を続けられるのかまで考える余裕はない。普及の現場には、そんな難しさがあるのではないでしょうか。
企業へ相談しても、トップ大会ほどの観客や露出は見込めない。それでも、少人数の体験だから価値が小さいとは限りません。僕は、参加しづらかった人が初めて来られたこと、その人がもう一度楽しめる場所を見つけたことを、企業と一緒に担う仕事として考えたいと思います。

人数の前に、来られない理由を見る
参加の壁は、一つではありません。未経験の自分が行ってよいのかという不安もあれば、道具がない、会場まで送れない、申し込み方が分からないという事情もある。同じ「申し込みが少ない」という結果でも、必要な対応は変わります。
まず聞きたいのは、参加した家族だけでなく、関心はあったが見送った人の話です。会場へ行く前、受付、競技の時間、帰宅後のどこで迷ったのか。そこで現場の指導者と話せば、企業に何を頼むと助かるかも絞れます。資金や記念品を求める前に、どの壁を一緒に減らしたいのかを決める仕事です。
商品を、初めて参加する人の力にする
「JFAユニクロサッカーキッズ」では、未就学児が無料で提供されたオリジナルユニフォームを着て、本格的なグラウンドでプレーします。ファーストリテイリングの活動紹介は、子どもがスポーツに親しむ機会を、衣服をつくる企業が支えていることを伝えています。
服はロゴを載せる場所であると同時に、競技をするために実際に身につけるものです。僕は、初めての子が「自分もプレーヤーだ」と感じられる体験を考える入口として、この取り組みを見ています。商品を配るという説明に、誰がどんな気持ちで使うかを重ねると、提供する意味が具体的になります。
企業側へは、何を提供できるかと同時に、どんな人が参加できる社会を目指したいのかも聞きたいです。子どもに商品を売るための場にする必要はありません。企業が長く取り組みたいことと、現場で必要なものが重なれば、小さな体験を続ける理由を一緒に考えられます。
得意になる前に、入りたくなる入口をつくる
UEFAとDisneyの「Playmakers」は、Disneyの物語を使い、女子がサッカーへ近づく入口をつくっています。慣れ親しんだ世界を通じて体を動かし、遊びから競技に触れる。UEFAの2023年の発表では、子どもが競技を始め、その後も続けられる道筋を整える方針も示されています。
キャラクターを会場へ掲出するだけでなく、子どもが参加する活動の中へ入れているところが面白い。「サッカーができる子が来る場所」という印象を変えれば、まだ競技に自信のない子にも入口を用意できる。企業が持つ物語や表現が、現場の指導の仕方にも関われることを示しています。
対象は大きく違いますが、ベルギーのDecathlonによる「The Breakaway」も、参加できる状態をつくる例です。担当PR会社の説明によると、刑務所の受刑者に自転車や接続機器を用意し、Zwift上で外の人と走れるチームをつくりました。Walkie Talkieの事例紹介で、その設計が説明されています。
子どもの普及活動へ、この企画をそのまま移すわけではありません。持ち帰りたいのは、道具を渡すことから、誰と一緒に参加できるかまで考えている点です。移動ができない、仲間がいないなど、その人の条件に合わせて、商品と仕組みを組み合わせる。企業が担う仕事を、参加者の側から探せます。
体験会の後に、受け止められる場所があるか
初めての体験が楽しくても、近所で続けられる場所が分からなければ、次の参加には進みにくい。体験会を企画するときは、終わった後の案内も同時に考えたいです。地域のクラブ、学校、施設のうち、どこがどんな人を受け入れられるのか。名前を並べるだけでなく、指導体制や空き状況まで確認します。
大きなイベントで関心を集めた後、地域の指導者へ問い合わせが集中しても、受け入れの準備がなければ困ってしまいます。体験会の規模と、その後に受け止められる人数を合わせる。必要なら複数の開催日に分けたり、次の機会を待てる案内を整えたりする。集める仕事と受け入れる仕事を、同じ計画で考えることが必要です。
仮に、道具がないことを壁として選ぶなら、当日の貸し出しだけでなく、もう一度参加するときにも借りられるかを検討する。保護者が返却に行く負担や、保管、点検を誰が担うかも決めます。これは新しい取り組みを考えるための例ですが、「道具を寄贈する」で終えず、使い続けられる状態をつくるところまでが仕事です。
保護者への連絡、写真の扱い、安全への配慮、指導者の準備には、資金と時間がかかります。企業へ見せる当日の演出だけで予算を使い切らず、この実務も含めて相談する。良い活動を続けるために、誰かの無理が隠れていないかを見たいと思います。
初参加と、もう一度の参加を分けて確かめる
振り返りでは、初めて来た人がどれくらいいたか、何が来る助けになったかを見ます。その後については、地域の活動へ問い合わせたのか、実際に参加したのかを分ける。「続けたい」という気持ちと、通える場所を見つけて参加できたことには距離があります。
すべての家族を長く追う必要はありません。目的を伝え、無理のない方法で確かめられる範囲を決める。参加しなかった人の事情や、指導者側の負担も聞ければ、次に直す場所が見えてきます。企業へも、資金が何に使われ、どの壁を小さくできたかを具体的に伝えられます。
初めて楽しさを知った人が、また来たいと思い、来られる場所がある。その間をつなぐことに、企業の力を使う。普及への協賛を一日の催しから考え直すと、企業と現場が担う仕事も、続けるために必要な費用も、説明しやすくなります。
参考資料
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