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その競技だから面白い スポーツ企画の核を見つける

執筆:杉本 啓(代表取締役)
その競技だから面白い スポーツ企画の核を見つける

この記事のまとめ

選手や競技への具体的な理解から、見る人が面白がる仕組みを見つけ、企業が実現する役割と結ぶ。

スポーツの企画を考えるとき、「挑戦」「成長」「仲間」といった言葉から始めることがあります。企業の方針と結びつけやすく、関係者とも共有しやすい言葉です。ただ、そのまま映像やイベントにすると、選手や競技を替えても成立する内容になりがちです。

僕が知りたいのは、その人が何を見て判断し、何に夢中になり、見る人はどこで驚くのかということです。競技を深く理解すると、表現の材料が増えます。その発見を、企業が可能にすることと結べたとき、スポーツを起用する理由が企画の中に生まれます。

競技の動きと判断、本人の関心、文化と場所を持ち寄り、見続けたくなる一場面を探す図。企業と協力者の役割を結び、詳しい人の驚きと初めて見る人の楽しさを考える。
図解:三つの発見から、一場面の面白さを探す。企業・協力者の役割と、詳しい人にも初めての人にもある入口を考える。

競技を知る人と、面白さを見つける

競技の専門家に、完成間近の映像を確認してもらう。それは必要な仕事ですが、参加する時期が遅いと、普段しない動きや道具の使い方を直す役割に偏ります。本来は、何を見せると面白いかを探す段階から、一緒に考えたいと思います。

選手は一瞬のうちに何を読み取っているのか。練習では普通でも、外の人には驚きになる動きはないか。ファンが何度も見返すのはどの場面か。映像や実演を見ながら具体的に聞くと、企画書の抽象的な言葉には入っていなかった発見が出てきます。

正確さと分かりやすさも、この段階で考えられます。詳しい人には判断の難しさが伝わり、初めて見る人には思わず続きを見たくなる入口がある。その両方をつくるために、競技への理解を使いたいのです。

Orangeが揺さぶった、プレーを見る人の判断

OrangeとMarcelが2023年に公開した女子サッカーの映像は、男子代表の華麗なプレー集に見えるところから始まります。途中で仕組みが明かされ、実際には男子に見えるよう加工された女子代表選手のプレーだったと分かります。制作側は、女子と男子の似た動きを探すため、フランスサッカー連盟の映像を何週間も調べたと説明しています。Publicisによる作品紹介

面白いのは、見ている人自身が、すでにそのプレーを高く評価していることです。あとから女子のプレーだと知ることで、自分が何を手がかりに判断していたかを問い直す構造になっています。ハイライトを楽しむというファンの日常を、先入観に気づく仕掛けへ変えています。

Orangeは、あらゆるサッカーを支える立場を、この表現で示しています。僕が持ち帰りたいのは、映像加工という技法より、見る人のどんな思い込みに、どのプレーを使って向き合ったかという観察です。技術を使う目的が、競技への理解から生まれています。

Nikeが主役にした、ロンドンの若者の言葉

Nikeの「Nothing Beats a Londoner」は2018年の作品です。ロンドンの若者たちが、自分のスポーツや街での大変さを、競うように語り継いでいきます。制作側の応募解説では、若いロンドンの人たちとの関係を改めて強くすることを目指し、実際の若者と、その言葉や物語、地域の場所を使ったと説明しています。制作側による作品解説

地域の名所を背景にするだけでは、この作品の勢いは生まれません。身近な相手に負けたくない気持ち、自分の街への誇り、日常の大変さを言い合う語り方が、そのまま映像の進み方になっています。若者を広告に出すことと、若者の文化を表現の中心へ置くことの違いが見えます。

自分たちの地域で考えるなら、誰が、どんな言葉で、自分の競技や仲間を語っているかを聞きたい。そこで見つけた誇りや競争心を、ブランドがどう受け止められるか。出演者の選定から先に進んで、その人たちだから生まれる作品を考える材料になります。

Jason Paulの関心と、日光江戸村の世界が重なった

2017年の「Jason Paul Goes Back in Time」は、日光江戸村を舞台に、忍者や侍の世界とフリーランニングを組み合わせた作品です。Red Bullの紹介でも、Paul本人が忍者の動きや侍の規律から影響を受けてきたことが語られています。Red Bullによる映像と本人の紹介

僕がRed Bull時代に関わったこの企画では、本人の日本文化への関心に加え、日本での発信や競技を広めたいという思いがありました。日光江戸村には海外の人へ施設の魅力を届けたいという目的があり、日本のパルクールシーンの実力を伝える機会にもしたいと考えていました。Red Bullが制作と表現の場を支えることで、異なる立場の目的を、一つの作品へ重ねていきました。

追われ、かわし、移動する物語の中で、本人たちの身体能力が意味を持ちます。競技を知らない人は物語を追え、技を知る人は動きの難しさを楽しめる。場所も選手も、映像を成立させる要素です。僕にとって大切なのは、本人がしたかったことと、協力する側の目的が、作品の面白さにつながっていることです。

企画の核を、一つの場面で話せるか

三つの作品では、面白さの生まれ方が異なります。Orangeは見る人の先入観に働きかけ、Nikeは地域の人たちの言葉を語り方にし、Jason Paulの作品では本人の関心と場所の世界を重ねています。共通して学べるのは、具体的な発見が表現の仕組みまで変えていることです。

企画を話すときには、「誰が何をして、見る人がどこで続きを見たくなるか」を、一つの場面として伝えたいと思います。そこに、その企業が提供する商品、技術、場所、制作の力を加える。本人にとって参加したい理由があり、企業にとって支える意味があり、観客にとって楽しみがあるかを見ます。

構成の段階で選手や競技を知る人と話せれば、守りたい動きと、伝えたい面白さを一緒に考えられます。スポーツを深く知る時間は、表現を豊かにする時間でもあります。その積み重ねから、本人も関係者も誇れる企画をつくっていきたいと思います。

参考資料

  1. Publicis Groupe France: The France national football team like you’ve never seen it before, with Orange and Marcel.(2023年6月28日)
  2. The One Club: Nothing Beats a Londoner(2018年、制作側の応募解説)
  3. Red Bull: Jason Paul’s best freerunning moments
  4. NIKE, Inc.: FY2018 Q4 Earnings Release Conference Call Transcript(2018年6月28日、作品の実施と地域の声の起用を照合)
  5. web Sportiva 杉本啓インタビュー 2024年5月17日 第3ページ

この記事を書いた人

杉本 啓

株式会社イレブン・プラス 代表取締役。スペイン・バルセロナの大学でスポーツマーケティングを専攻し、IMG Japanでのインターンを経て電通に入社。その後、Red Bull JapanでAthlete Marketingを担当し、アスリート契約、イベント、映像制作を経験。2017年にアスリートマネジメント会社イレブン・マネジメントを、2023年にイレブン・プラスを設立。ブランドと競技、双方の実務経験をもとに、企業の課題と現場の声に向き合い、案件に応じた専門チームで企画から実行までを支援します。

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