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ファンの行動と選手の経験がスポンサー提案を変える

執筆:杉本 啓(代表取締役)
ファンの行動と選手の経験がスポンサー提案を変える

この記事のまとめ

人数や成績に、ファンの楽しみ方と選手の経験を重ねる。Jリーグ、Xbox、Jason Paulの事例から、企業がその相手と組む理由を説明できる提案を考えます。

スポンサー候補の企業から、どんなファンに届くのか、どの選手と組むとよいのかと聞かれる。来場者数もフォロワー数も、選手の競技成績も資料に入っている。それでも、その会社の商品とどうつながるかを話し始めると、提案が止まってしまう。数字を集めることと、人を理解して企画をつくることの間には、もう一つ仕事があります。

僕が知りたいのは、その人が何を楽しみ、何に時間をかけてきたかです。家族で観戦する人、戦術を読み解く人、特定の選手の生き方に引かれる人では、喜ぶ体験が違う。選手も、同じ競技、同じ成績だからといって、語れる経験や実現したいことまで同じにはなりません。その違いが、企業と組む理由になります。

ファンが楽しむ場面や困る場面、ファンが続けてきた能力、選手の経験や関心をそれぞれ知り、企業の目的に重ねて、この企業と組む理由を考える概念図。
図解:人数・成績に、この三つの理解を重ねる。企業の目的と、本人が参加する意味の両方から組み合わせを選ぶ。

ファンが楽しんでいる場面から考える

年齢や居住地が分かると、届ける相手を絞れます。そこに、観戦の前後に何をしているか、何をもっと知りたいかを重ねると、用意する体験まで考えられるようになります。人数の大きさだけでは見えなかった企業の出番が、具体的な場面として見えてくるからです。

Jリーグは2024年の会見で、全60クラブの観戦体験を調査し、飲食や物販の混雑を捉えていると説明しています。販売場所の変更や拡張、入店と会計の列を分ける工夫にも言及しました。Jリーグの会見発言録には、声を集めた先に変える仕事があります。

この情報を企業へ持っていくなら、まず現場でどの時間、どの人が困っているのかを確かめます。混雑が課題でも、案内、決済、調理、受け渡しのどこに原因があるかで、必要な力は違う。企業が持つ技術を当てはめる前に、観戦の楽しさを損なっている場面を一緒に見ることが、提案の出発点です。

応援している人の、できることも知る

ファンを理解すると、参加の仕方そのものを変えられることもあります。Xboxなどが2023年に発表した「The Everyday Tactician」は、Football Managerのプレイヤーから、英国のBromley FCで働く有給の戦術支援担当者を募集する企画でした。ゲーム内の実績と応募動画を通じて、クラブの仕事へ進める設計です。Xboxの募集発表で、その仕組みを確認できます。

面白いのは、ゲームを長く楽しんできた時間が、役割を担うための材料になっているところです。相手の布陣を分析する、選手の能力を見極める。その行動と、クラブの仕事をつないでいます。企業にとっても、商品の遊び方を紹介することから、一人のプレイヤーに新しい機会を用意することへ、表現が広がっています。

自分たちのクラブでも、写真、文章、地域の案内など、ファンが続けてきたことを知れば、別の接点が見つかるかもしれません。その場合は、本人が参加したいか、どこまで担えるか、負担に見合う対価は何かまで考える。役割と条件が分かれば、本人も参加するかを判断しやすくなります。

その選手が積み重ねてきたことを企画にする

選手の起用も、知名度の先を知ることで変わります。2017年の「Jason Paul Goes Back in Time」は、日光江戸村で忍者や侍の世界とフリーランニングを重ねた映像です。Red Bullの紹介で、Paul本人は忍者の動きや侍の規律から影響を受けてきたと説明しています。作品と本人の紹介からは、舞台が本人の関心とつながっていることが分かります。

この話を踏まえると、選ぶ基準は「高いところを跳べる有名な人」だけではなくなります。本人が影響を受けてきた世界で、自分の技術をどう表現するか。その問いがあるから、場所や物語にも選ぶ理由が生まれる。企業の側にも、その表現を実現する舞台と制作を用意する役割が見えます。

誰でも同じ台詞を言える企画と、その人の経験があって初めて成立する企画では、選手が参加する意味も変わります。僕なら、本人が繰り返し工夫していること、影響を受けた人や文化、これからやってみたいことを聞きます。苦労話を引き出すためではなく、まだ企画になっていない本人の価値を見つけるためです。

企業が選ぶ理由を一枚に並べる

仮に、地域の食品会社が新商品を知ってもらう機会を探しているとします。最初に、誰のどんな食事に届けたい商品なのかを聞く。観戦前に家族で食べるものなのか、忙しい日の準備を助けるものなのかで、選ぶ場面は違います。「食品会社だから食事に関心がある選手」というところから、もう一段具体的にします。

たとえば、その商品が短い時間で食事を整えるためのものなら、自炊を続けてきた選手が、何に困り、どんな工夫をしてきたかが材料になります。本人にそうした経験と参加する意向があるかを確認し、食事を準備する場面や、家族が試せる体験を検討する。

提案には、企業が届けたい価値、ファンが行動する場面、本人が語れる経験、用意する体験を並べます。どこか一つがつながらなければ、選手や企画を組み直す。「人気があるから」という説明だけで進めず、この組み合わせで何が伝わるかを、企業担当者と確かめられる形にします。

集めた情報を、次に選べる材料へ戻す

実施後に確かめたいのは、想定した人が参加したか、本人の話のどこが印象に残ったか、商品の役割が伝わったかです。反応が違ったなら、相手の選び方と体験内容のどこを変えるかを考える。取得する情報は目的に必要な範囲へ絞り、誰の回答なのかも残しておきます。

営業資料に情報を増やすだけでは、提案は強くなりません。ファンが楽しんでいる理由と、選手が積み重ねてきた時間を知り、企業が実現したいことへ結ぶ。そこまで考えると、企業へ渡せるものが、人数や成績の説明から、一緒につくる仕事の提案へ変わります。

参考資料

  1. Jリーグ:2024年度 第10回Jリーグ理事会後会見発言録
  2. Xbox Wire:The Everyday Tactician 募集発表(2023年11月14日)
  3. Red Bull:Jason Paul's best freerunning moments(2017年作品紹介)

この記事を書いた人

杉本 啓

株式会社イレブン・プラス 代表取締役。スペイン・バルセロナの大学でスポーツマーケティングを専攻し、IMG Japanでのインターンを経て電通に入社。その後、Red Bull JapanでAthlete Marketingを担当し、アスリート契約、イベント、映像制作を経験。2017年にアスリートマネジメント会社イレブン・マネジメントを、2023年にイレブン・プラスを設立。ブランドと競技、双方の実務経験をもとに、企業の課題と現場の声に向き合い、案件に応じた専門チームで企画から実行までを支援します。

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