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企業・ブランド 協賛の活用

協賛ロゴを見た人にその企業の何が残るのか

執筆:杉本 啓(代表取締役)
協賛ロゴを見た人にその企業の何が残るのか

この記事のまとめ

協賛ロゴの露出から、企業を覚える理由へ。Consul、Spotify、ASICSの異なる発想を読み解き、ファンの記憶と自社が伝えたい価値をつなぐ企画を考えます。

看板は予定どおり掲出され、中継にも企業のロゴが映った。協賛を始めた企業にとって、それは大切な成果です。ところが、次年度の予算を考える場で「どんな会社だと伝わったのか」「顧客との関係はどう変わったのか」と聞かれると、説明に迷うことがあります。

営業には顧客との会話に使える材料がほしい。商品部門には使い心地を知ってもらいたい。クラブには支援を続けてほしい事情がある。それぞれの期待を背負う担当者が、確実に報告できる露出を重視するのは理解できます。

僕がそこからもう一歩考えたいのは、ファンが企業名に触れた後、何を思い出すかです。楽しい場面をつくってくれた。自分の準備を助けてくれた。好きな文化と出会わせてくれた。その記憶と、企業が伝えたい価値をつなぐところに、協賛を育てる余地があります。

商品の約束、企業が届ける文化、支える専門性という三つの視点を、ファンの体験と企業の役割を結ぶ企画へ持ち寄る概念図。露出、体験の記憶、役割の理解は分けて確かめる。
図解:三つは事例から持ち帰る発想の違い。自社の強みが、ファンのどんな体験と記憶に結びつくかを考える。

企業を覚える理由を、体験から考える

露出は、契約する時点で約束しやすく、実施後にも確かめやすいものです。看板の場所、掲出期間、放送された場面は、企業も権利元も共通の資料で確認できます。新しい社名を広く知ってもらいたいなら、接触を増やすことには十分な意味があります。

ただ、協賛費を確保した後で、体験づくりや商品への案内に必要な予算を別に探すと、次の仕事が動かなくなります。権利元は掲出を終え、企業は露出を報告する。その区切りで仕事が完了すれば、理解や利用へつなぐ場面は手つかずのままです。

会場へ来る人は、試合を楽しみ、選手を応援するために来ています。企業が何を伝えたいかと一緒に、その人が何に喜び、どこで迷うかを見る必要がある。商品や技術が役立つこともあれば、企業が持つ人や文化が、新しい楽しみを生むこともあります。

Consulは、広告枠の使い方を変えた

ブラジルの洗濯機ブランドConsulは、地元のクラブ、Juventusのユニフォーム広告枠をすべて購入し、自社を含むロゴを外す企画を実施しました。The One Show 2025の掲載資料では、この姿で20試合を戦ったと説明されています。Consul Clean Sponsorshipの紹介

僕が面白いと思うのは、「衣類をきれいにする」という商品の約束が、ファンの大切なユニフォームへの行動になっていることです。広告枠を買うという企業の判断が、企画の中心にある。ファンに喜ばれることと、Consulが何をする会社かが、一つの発想で結ばれています。

ここから持ち帰りたいのは、ロゴを外す手法そのものではありません。自社の商品が約束している価値を、ファンが喜ぶ行動に置き換えられるか、という問いです。ファンが守りたいものを知らなければ、この発想にはたどり着けません。

Spotifyは、自社が届ける文化を持ち込んだ

SpotifyとFCバルセロナは、2022年のエル・クラシコに合わせ、DrakeのOVOロゴを掲出する特別ユニフォームを企画しました。Spotifyは、クラブの世界的なファンへアーティストを届け、音楽とサッカーをつなぐ取り組みと説明しています。Spotifyの発表

こちらは、広告面へ何を持ち込むかを変えています。Spotifyが日頃から届けているアーティストが、ファンの関心を集める試合の中に入る。同じ胸の広告面でも、企業が持つ文化や人との関係を生かすと、ファンにとって別の楽しみになります。

企業の強みは商品や設備だけではない。誰と関係を持ち、どんなコンテンツを届けられるかまで見てみると、契約に書かれた一つの権利にも、異なる使い方が見えてきます。

ASICSは、本人が準備する時間に入った

国内では、ASICSが東京マラソン2025への初挑戦を支えた、じゅなたさんの取り組みがあります。東京マラソン財団のインタビューは、若い女性へマラソンの魅力を届けたいという企業側の意図と、本人の挑戦したい気持ちを紹介しています。足形の測定、コーチによるシューズの提案、ウエア選びなど、準備の過程に支援がありました。東京マラソン公式インタビュー

ここでは「挑戦を応援する」を、本人が実際に迷う場面まで具体化しています。初めての大会へ向けて何を選び、どう備えるのか。商品と専門知識を持つ企業が、その時間に入る。見る人も自分の準備と重ねられるため、企業が担う役割を理解しやすくなります。

Consulは商品の約束を行動にし、Spotifyは持っている文化を届け、ASICSは本人の準備を支えた。三つを同じ手法として真似する必要はありません。自社が持つ何を、相手のどんな気持ちや行動へ結びつけるか。その考え方が参考になります。

自社で残したい記憶を、一つ決める

例えば、初観戦の人が楽しめる体験を考えるなら、まず自社がどんな企業だと伝わりたいかを決めます。そのうえで、来場前、会場、帰宅後の行動をたどり、商品や知識を生かせる場面を探す。便利な案内をつくるとしても、ファンに助かったと思われる理由と、その企業の仕事が自然につながっているかまで見たいです。

必要な権利、制作、運営の担当と費用は、企画と一緒に決めます。選手へ協力を頼むなら、本人がやりたいことと競技の予定を聞く。大きな施策から始めなくても、一つの試合や参加機会で試せます。体験した人が商品をもっと知りたくなったとき、次に進める場所まで整えておきたいところです。

振り返る際は、露出に加えて、どんな体験が記憶に残り、それをどの企業がつくったと理解されたかを聞きます。案内が使われたか、商品への関心が生まれたかも、それぞれ確かめる。社名を知ったことと、企業の価値を理解したことを分けて見ると、次に直す場所が見えてきます。

ファンが企業名を見たとき、楽しかったことや助かったことを思い出せる。その記憶の中に、自社が届けたい価値がある。僕は、そこまで考えることを協賛の企画の仕事にしたいと思っています。

参考資料

  1. The One Show 2025: Consul Clean Sponsorship
  2. Spotify and FC Barcelona Celebrate Drake’s Streaming Milestone With a Limited-Edition Shirt(2022年10月14日)
  3. 東京マラソン公式インタビュー:ASICSとじゅなたさんの東京マラソン2025への挑戦(2026年2月15日)

この記事を書いた人

杉本 啓

株式会社イレブン・プラス 代表取締役。スペイン・バルセロナの大学でスポーツマーケティングを専攻し、IMG Japanでのインターンを経て電通に入社。その後、Red Bull JapanでAthlete Marketingを担当し、アスリート契約、イベント、映像制作を経験。2017年にアスリートマネジメント会社イレブン・マネジメントを、2023年にイレブン・プラスを設立。ブランドと競技、双方の実務経験をもとに、企業の課題と現場の声に向き合い、案件に応じた専門チームで企画から実行までを支援します。

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