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同じ協賛メニューから企業ごとの役割をどうつくるか

執筆:杉本 啓(代表取締役)
同じ協賛メニューから企業ごとの役割をどうつくるか

この記事のまとめ

企業ごとに異なる協賛を、クラブの事業として続けるには。AWS、パナソニック、Xylemの役割を手掛かりに、協賛費、技術・現物提供、追加原価を分けて提案する方法を考えます。

IT企業にも食品会社にも地域金融機関にも、看板、招待券、冠試合を組み合わせた同じ提案書を持っていく。説明はしやすく、価格の根拠も揃えられます。それでも、企業から自社に合う活用を求められると、どこから変えるべきか迷うことがあります。

個別の案をつくれば、選手に何を頼めるか、会場で何ができるかと、確認する相手が増えます。現場は試合の運営を守りながら、新しい約束を引き受ける。費用や人手が読めないまま営業だけで進めるのも難しいでしょう。

僕は、企業ごとの提案を考えるとき、企業の目的、競技や観戦で必要な仕事、クラブが続けられる収支を一緒に見たいと思っています。ファンが喜び、企業にも価値があり、クラブの事業として成り立つ。その条件までつくることが、提案の仕事です。

企業の商品、技術、人と、現場の競技、観戦、運営で必要な仕事を持ち寄り、その企業が担う役割を考える図。協賛費、提供の範囲、追加の原価を分けて検討する。
図解:企業の力と現場で必要な仕事を両方見る。提案時には、協賛費・提供の範囲・追加の原価を分けて揃える。

共通メニューを土台に、企業の目的を聞く

共通のスポンサー区分や価格表は、権利を管理し、約束を守るために役立ちます。限られた人数で運営するクラブにとって、何を提供できるかが揃っているのは大切です。ただ、企業が実現したいことまで同じと考えると、提案の幅が狭くなります。

相手が深めたいのは、地域との関係か、顧客との対話か、技術を知ってもらう機会か。地元を支えたいという動機も大切にしながら、協賛を通じてどんな会社だと伝わりたいかを聞きます。会社の業種に加え、商品、社員、拠点、持っている知識まで見ると、その企業が関わる理由が具体的になります。

クラブ側でも、営業が現場の仕事を知る必要があります。観戦や運営で何を改善したいのか、選手が何に取り組みたいのか。企画が決まった後に協力を求めるより、この段階で話した方が、企業の力が役立つ場所と、無理のある約束を見分けられます。

技術が必要になる場面まで具体化する

ブンデスリーガは、AWSと試合データを分析する「Bundesliga Match Facts」を展開しています。2025年9月に公表した「Match Momentum」は、直近の攻撃の動きなどから、両チームの試合の流れを可視化する指標です。放送やリーグの媒体で、試合を理解する情報として届けられます。ブンデスリーガの公式発表

「どちらが押していたのか」「いつ流れが変わったのか」というファンの関心へ、データを扱う技術が入っています。技術を見せる場所と、試合を楽しむために知りたいことが重なる。企業を調べる際にも、どんな能力を持つかと一緒に、それが誰の何に役立つかを考えたいです。

国内では、パナソニックが2016年に公表した、吹田市立サッカースタジアムへの導入例があります。LED照明や大型映像装置に加え、火災報知と連動して案内を表示する避難誘導、売店の販売を管理するPOSなど、複数の技術が観戦と運営を支えています。パナソニックの導入紹介

こちらは設備導入の紹介で、広告協賛と同じ契約条件を示す資料ではありません。参考にしたいのは、「見る」「買う」「移動する」と観客の行動を分けて考えれば、企業の技術が必要になる仕事も具体的に見えてくることです。その着眼点を提案へ取り入れたうえで、設備の購入なのか、協賛に伴う提供なのかは別に整理する必要があります。

ファンとの接点に、企業が担う内容をつくる

マンチェスター・シティは2024/25年の年次報告で、パートナーのXylemによる、水の使用量を考える計算ツールを使った啓発活動を紹介しています。クラブが持つファンとの接点を通じ、暮らしの中で水の使い方を考える機会を届けています。マンチェスター・シティの年次報告

高度な設備を入れる以外にも、企業の専門性を生かす方法があります。この例では、クラブへの関心を、自分の暮らしを考える入口にしている。企業が伝えたいテーマへファンを招くとき、何をすれば参加したくなるかまで設計する余地があります。

三つの事例が、協賛の営業手順や費用配分まで教えてくれるわけではありません。それでも、企業の力を使う場面が具体的だという点は共通しています。自分たちのクラブでも、来場前の案内、練習の準備、会場の売店、地域との活動へと場面を分ければ、検討できる役割が見えてきます。

協賛費、提供する力、追加の原価を分ける

ここで曖昧にしたくないのが、お金と仕事の関係です。クラブの活動を支える協賛費、企業が提供する商品や技術、企画を動かすための制作・運営費を分けて整理します。企業の提供価値が大きく見えても、それだけでクラブが必要な現金を確保できるとは限りません。

現物や技術の提供を受けるなら、何をどの範囲まで提供し、導入後の更新や維持を誰が担うかも話します。元から購入を予定していたものか、新たに必要になるものかでも、クラブにとっての意味は変わる。企業側の提示する金額を、そのまま協賛費と同じものとして扱わず、双方が納得できる条件を決めたいところです。

個別企画で増える仕事も原価に入れます。制作会社への支払いに加え、素材確認、会場の調整、当日の人員、実施後の対応まで考える。現場の担当者が普段の仕事の合間に引き受けるとしても、手間が消えるわけではありません。クラブ側が担える範囲と、別途必要な費用を、提案する時点で見せることが大切です。

企業側にも、協賛費や提供する力に対して何を得るかを説明します。自社技術を理解してもらう場なのか、顧客との対話を育てる機会なのか。目的と活動が合っていれば、担当者も社内へ持ち帰りやすくなります。双方の事情を揃えることで、実施後に負担だけが残る約束を減らせます。

提案書のどこを変えるかを、一つ決める

例えば、初観戦の人へ来場案内を届ける企画を、企業と一緒に考えるとします。これは仮の例ですが、共通の掲出や招待の権利を土台にしながら、案内の制作・配信をその企業が担えるかを検討できます。ファンが迷わず来られることと、企業のどんな強みを知ってもらうかを結ぶわけです。

提案書には、追加する活動、その提供範囲、クラブが担う確認や情報更新、制作・運営費、協賛費との関係を書きます。さらに、案内が使われたか、来場時のどんな迷いが減ったか、企業の役割が伝わったかを、実施後に確かめる方法まで決めます。

毎回すべてを特注する必要はありません。繰り返し使える権利や運用は揃え、その企業だから担える部分を変える。実施後は、企業の目的に近づいたか、ファンに役立ったか、クラブに残る収入と負担はどうだったかを一緒に振り返ります。

こうした提案が積み重なると、クラブは自分たちの場にある価値を、企業は自分たちが担える役割を具体的に知ることができます。僕は、その発見を、双方が続けられる条件まで結びつけたいと考えています。

参考資料

  1. Bundesliga Match Facts powered by AWS: Match Momentum expands data offering(2025年9月18日)
  2. Panasonic Stadium Solutions – Suita City Football Stadium(2016年8月9日)
  3. Manchester City Annual Report 2024/25: Commercial

この記事を書いた人

杉本 啓

株式会社イレブン・プラス 代表取締役。スペイン・バルセロナの大学でスポーツマーケティングを専攻し、IMG Japanでのインターンを経て電通に入社。その後、Red Bull JapanでAthlete Marketingを担当し、アスリート契約、イベント、映像制作を経験。2017年にアスリートマネジメント会社イレブン・マネジメントを、2023年にイレブン・プラスを設立。ブランドと競技、双方の実務経験をもとに、企業の課題と現場の声に向き合い、案件に応じた専門チームで企画から実行までを支援します。

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