競技の魅力が伝わった先に、企業が参加する理由をつくる
この記事のまとめ
企業が目指す未来と、団体が実現したいことをどう結ぶか。キリンとJFAの連携を中心に、企業・団体・参加者が一緒に取り組む理由と、社内で説明できる提案のつくり方を考えます。
競技の歴史、選手の活躍、会場の熱気を説明すると、企業の担当者が「素晴らしい活動ですね」と言ってくれる。それでも次の打ち合わせが決まらない。そんなとき、競技の説明をさらに増やす前に、相手が社内へ何を持ち帰れるかを考えたいと思います。
競技を応援したい気持ちは、関係の大事な入口です。同時に、企業には、自分たちが目指す未来や、顧客、社員、地域との関係があります。その会社が競技に参加することで、誰にどんな機会をつくれるのか。そこまで話せると、協賛は、良い活動への賛同から、一緒に担う仕事へ進みます。

その会社は、どんな未来をつくりたいのか
僕なら、まず相手がどんな会社として見られたいかを聞きます。今年売りたい商品だけでなく、どんな人や地域と関わりたいのか、何を長く大切にしてきたのか。その話と、団体が守りたいこと、変えていきたいことを重ねます。
ここで「銀行だから金融教育」「飲料会社だから水分補給」と業種だけで決めると、会社名を替えても同じ提案になりやすい。商品や技術は大きな手掛かりですが、その会社がなぜ今、その相手に届けたいのかまで知る必要があります。企業の目的を聞くことは、団体が企業の都合に合わせることとも違います。双方が一緒に取り組める場所を探すための対話です。
キリンとJFAは、家族が一緒にプレーする場をつくった
JFAとキリンが共催する「キリンファミリーチャレンジカップ」は、家族や仲間が一緒に楽しむウォーキングフットボールのイベントです。キリンの2024年3月の発表は、家族や身近な仲間とのつながりを深めることを目的に掲げています。同じ発表には、企業として「コミュニティ」に取り組み、人と人がつながる、こころ豊かな社会を目指すという説明があります。キリンの開催発表を読むと、企業側の理由も分かります。
僕が注目するのは、その目的が参加の仕組みに入っている点です。家族のつながりを伝える広告を出すことに加え、家族が同じチームでプレーする時間をつくる。2024年の千葉開催の報告には、親子三世代が同じピッチに立つ様子が紹介されています。開催後の公式レポートからは、企業が掲げることと、参加者が実際にすることの接点を読み取れます。
団体にとっては、年齢や経験が違う人もサッカーに触れられる機会になる。参加者にとっては、普段とは違う形で家族や仲間と楽しめる。キリンにとっては、目指す人と人のつながりを、JFAと実際の場にできる。僕は、この三者の目的が重なるところに、組む意味があると考えます。
また、キリンの発表には、1978年からサッカー日本代表を応援してきた関係も記されています。長く育ててきた関係の中で、競技を観る人から、一緒にプレーする人へ機会を広げていく。その企業の過去の取り組みと、これから目指すことがつながっている点も、自分たちの提案で見習いたいところです。
ここから持ち帰るのは、すべての企業に家族向け大会を提案することではありません。その会社が大切にしていることを、参加者が体験できる仕事へ変えるという考え方です。企業の理念を最後に一行添えるより、誰がどう参加するかの設計に入れる方が、組む意味を説明しやすくなります。
企業が担う役割は、資金以外にもある
2019年に発表されたBarclaysとFAの連携は、女子トップリーグの冠協賛に加え、学校で女子がサッカーに触れる機会を広げる取り組みを含んでいました。当時のBarclays側の説明には、若い人の自信や成長の機会を支える考えが示されています。FAによる発表では、トップの舞台と、競技を始める入口を一つの関係で支える設計を確認できます。
2017年のNikeとオランダサッカー協会の取り組みでは、女子代表の呼称に合わせて雌ライオンのエンブレムを制作し、ユニフォームや発信に展開しました。制作会社は、チームの誇りを表し、次の世代の選手を刺激する象徴を目指したと説明しています。Wieden+Kennedyの事例紹介には、選手自身が新しいエンブレムを紹介する展開も記されています。
この二つを見ても、団体が企業へお願いできることは、広告枠の購入だけではありません。参加環境を支える、商品やデザインで選手の意思を表す、持っている発信の場を開く。団体側が競技を深く知っているほど、企業が持つ力の使い方を具体的に相談できます。
担当者が社内で説明できる提案にする
実際の打ち合わせでは、企業が力を入れている顧客や地域に加え、担当者が誰と相談して決めるかも聞きます。団体側も、選手の負担、競技日程、指導方針など、先に守る条件を共有する。条件を後回しにして大きな構想だけ合意すると、現場へ降りたところで仕事が止まってしまいます。
提案の中心には、「企業がこの役割を担うと、この人の体験がこう変わる」という一文を置きたいです。それに、企業側が目指すこと、団体が提供する場や専門性、必要な費用と双方の担当を添える。企画の説明と一緒に、予算を動かすための材料も渡します。
たとえば移動が参加の壁なら、交通に関わる企業と、どの地域の誰が通えるようになるかを検討する。単に送迎を頼むのではなく、その会社が地域で築きたい関係と合っているか、運行や受け入れを誰が担うかまで確かめる。これは仮の考え方ですが、相手の仕事と参加者の行動を並べると、相談すべき内容が具体的になります。
応援する理由を、続けられる関係へ育てる
実施後は、企業が担った役割は機能したか、参加者にどんな機会が生まれたか、団体に無理が残らなかったかを伝えます。短期の売上へすべてを換算する必要はありません。何を支え、どんな社会や競技の未来へ近づきたいのかを、双方で話せることが継続の土台になります。
競技の魅力を知っていることは、団体の大きな強みです。その理解に、相手の会社を知る仕事を重ねる。その会社が関わる理由と、競技側が一緒にやりたい理由の両方が見えたとき、協賛の提案は、相手と実現したい仕事の話になります。
参考資料
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